最高裁判所第三小法廷 昭和25年(さ)31号 判決 1950年7月04日
主文
原略式命令を破棄する。
被告人を科料九百円に処する。
被告人が右科料を完納することができないときは金五〇円を一日の割合で換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
検事総長福井盛太非常上告申立の理由について。
記録を調べて見ると原審東京簡易裁判所は、被告人が昭和二四年六月二五日午前一〇時五〇分頃東京都中央区銀座四丁目二番地先銀座四丁目交叉点において警察吏員の手信号による停止信号に従わないで数寄屋橋方面より築地方面に向い、小型乘用自動車を運転進行したものであるとの犯罪事実を判示し、これに対し道路交通取締法五条、二九条二号、道路交通取締令六条、罰金等臨時措置法二条を適用し、昭和二四年九月九日「被告人を科料千円に処する。右科料を完納することが出來ないときは金五拾円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する」旨の略式命令を発し、右略式命令の謄本は、同年九月一四日被告人に送達され、同年九月二二日正式裁判請求期間の経過により確定したものであることは所論のとおりである。しかし、原略式命令は所論のように罰金等臨時措置法二条を適用しているのであるが、同条によれば科料の最高額は、千円未満であるのにかかわらず、原略式命令が科料千円を科したことは法定の刑罰でない刑罰を科したものであって、その命令は同条項に違反したものといわねばならない。それ故本件非常上告は、結局その理由があるものと認める。
よって刑訴四五八條一号本文により原略式命令を破棄すべきものであるところ、該命令は、被告人のため不利益であるから同号但書に従い更に判決をすることとし、原略式命令の確定した事実に対し法令を適用すると、被告人の所為は、道路交通取締法五条、道路交通取締令六条に違反し、同条二九条、罰金等臨時措置法二条に該当するので所定刑中科料刑を選択し、その金額の範囲内において被告人を科料九百円に処すべく、右科料を完納することできないときは、刑法一八条に従い金五〇円を一日の割合で換算した期間被告人を労役場に留置すべきものとし、主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)